日銀がマイナス金利政策を解除! 暮らしはどうなる? 日本経済への影響は?

3月19日、日銀が、2日間の金融政策決定会合を受けてマイナス金利政策を解除しました。
事前に市場への折り込みが進んでいたこともあり、利上げ発表直後の市場は円安、長期金利低下、株高で反応しました。ドル円は150円台乗せ、長期金利は0.7%台前半へと低下、日経平均株価は40,000円の大台回復となりました。
日銀はマイナス金利解除と同時に、イールドカーブコントロール(長短金利操作/YCC)も撤廃し、ETF(上場投資信託)・REIT(不動産投資信託)の新規購入を撤廃しました。植田総裁は就任後1年を経て、引き続き緩和的な金融政策は維持するものの、黒田前総裁の「異次元」の金融緩和政策を終了、短期の政策金利を0~0.1%程度に誘導する「普通」の金融緩和政策に転換しました。
17年ぶりの利上げで私たちの暮らしはどうなる?日本経済への影響はどうなのでしょう?

日銀がマイナス金利政策を解除しました。金融政策はどう変わったの?

日銀がマイナス金利政策を解除(ゼロ金利政策へ移行)し、2012年末の安倍政権発足後のアベノミクスによる「大規模な金融緩和政策」を終了。先週の発表で、春闘の賃上げが大企業で5%超、中小企業で4%超となったことも受け「賃金と物価の好循環」が見通せるとの判断と見られます。
日銀の金融政策は具体的にどう変わったのでしょうか?
以下に今回の政策決定による金融政策の変更点を記載します。

マイナス金利政策の解除

2016年1月の黒田バズーカ第3弾「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」で、質的金融緩和の一環として導入された金融機関の資金の日銀当座預金への預託金利をマイナス0.1%とし(日銀預託は0.1%損になり)、金融機関の資金を市場に供給することを誘導する政策を撤廃します。
3月21日からは、日銀当座預金への預託金利をプラス0.1%とし、政策金利の指標となる「無担保コール翌日物」の金利を0~0.1%に誘導します。

イールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃

2016年9月に導入されたたイールドカーブ・コントロール(YCC)を撤廃します。日銀が短期金利のみならず長期金利(10年物国債金利)を操作することによって景気を刺激することを目的として導入され、当初は、長期金利を0%程度に誘導するために導入されました。
ただし、YCCは、長期金利の上限金利が順次引き上げられ、植田総裁のもとでの昨年7月には上限が事実上1.0%に引き上げら、さらに同年10月には事実上の上限であった1%を一定程度超えることを容認する方針が示され、昨年時点で事実上撤廃されていました。

ETF(上場投資信託)・REIT(不動産投資信託)の新規購入撤廃

アベノミクスの三本の矢のうちの一本目の矢「大規模な金融緩和政策」の一環として、2013年4月に導入された黒田バズーカ第1弾「量的・質的金融緩和」は、2%の物価安定目標を2年程度で達成するため、金融市場に大量の資金を供給する量的金融緩和の一環として、日銀が大量の国債を市場から買い入れすることを最大の特徴としています。
この黒田バズーカ第1弾では、同時に、2010年12月、白川総裁時代に導入されたETF・J-REITの日銀買い入れについて、年間1兆円規模に増加され、その後、ETF等の年間買入額は、2014年10月には年間3兆円、2016年7月には年間6兆円に増額されています。
ただし、ETF等の買入れは、昨年は3回のみの実施、今年は未実施と事実上終了していました。むしろ、今後は、簿価で40兆円弱、含み益が30兆円程度、時価で70兆円程度と見込まれる日銀保有のETF等の残高を如何に減らしていくことかが、課題となってくるでしょう。

長期国債の購入は継続

一方、長期国債の買い入れは現在と同程度の額で当面継続するとされ、金利水準は市場が決めるとしつつも、現在の経済・物価情勢を踏まえると、当面は緩和的な金融環境が維持されると見込まれるとしています。

今回の日銀の政策決定を総括すると、マイナス金利政策を解除、黒田前総裁が導入した「異次元」の緩和政策の看板を下ろすという意味では画期的な決定ですが、既に、事実上終了していた多くの「異次元」の政策を名目的にも終了し、短期の政策金利を操作する「普通」の金融緩和政策に移行したと言えるでしょう。
日銀の市場との対話も奏功し、上記のような実態でもあり、市場の反応も限定的なものでした。

マイナス金利解除で私たちの暮らしはどうなるのでしょうか?

マイナス金利の解除で私たちの暮らしはどうなるのでしょうか?
私たちの暮らしとの関係で言いますと、銀行預金の金利、住宅ローンの金利、企業の借入金利等が注目されますが、今回の政策決定で直ちに変わることは無いと見込まれます。
三菱UFJ銀行と三井住友銀行は、日銀の利上げを受けて、普通預金金利を0.001%から0.02%に引き上げると発表しました。従来の20倍とのことですが、この水準では大きな影響はないでしょう。また、三菱UFJ銀行は、優良企業に融資する際の最優遇金利であり、住宅ローンの変動金利の基準でもある短期プライムレートは1.475%を維持するとしています。現在のところ、今回の利上げの住宅ローンや企業の借入金利への影響は限定的と見られます。
ただし、今回の政策決定により、日本においても「金利のある世界」へ移行、今後、利上げがあれば、預金金利や住宅ローン金利の上昇が見込まれ、私たちの暮らしにも影響が出てくるでしょう。

マイナス金利解除による日本経済への影響はどうなのでしょうか?

マイナス金利解除による日本経済への影響はどうなのでしょうか?
結論から言えば、今回の政策決定による日本経済への影響は限定的と考えられます。
まず、今回の利上げは、17年ぶりの利上げであり、マイナス金利の解除という画期的なものですが、金利の引き上げ幅は0.1%とごく小幅、植田総裁が、当面は緩和的な金融環境が維持されると見込まれるとしており、日本経済への影響は限定的と見られます。
過去に例があった利上げの際の長期金利の急騰や円高の進行の懸念はあり得ますが、今回の日銀は、周到に市場との対話を行い、急激な変動を招かないよう、今回の措置の市場への折り込みを事前に進めました。実際、19日の政策発表直後のマーケットは、為替、長期金利、株価とも、懸念される方向とは逆の方向に反応しました。
また、長期金利をめぐる政策については、イールドカーブコントロール(YCC)やETF等の購入といった「異次元」の措置は撤廃したものの、今後もこれまでと同程度の額で国債の買い入れを継続するとともに、金利が急激に上昇する場合は国債買い入れ額を増額する等、機動的なオペを実施するとし、長期金利を抑え込む姿勢を鮮明にしています。
むしろ、2年程度で2%の物価安定目標を達成するとしつつも、結果として、10年経ってもその達成ができなかった黒田前総裁時代の「異次元」の金融緩和による副作用、すなわち、利ザヤが稼げず収益が圧迫された銀行や、運用利回り低下により保険・年金商品の商品性が劣化するなど年金生活者への負の影響、また、国債市場の市場機能の低下を招くなど、「異次元」の金融緩和政策の負の遺産を解消するため、金融政策正常化に向けた第一歩を踏み出したと評価すべきでしょう。

まとめ

日銀がマイナス金利政策を解除(ゼロ金利政策へ移行)し、2012年末の安倍政権発足後のアベノミクスによる「大規模な金融緩和政策」を終了しました。植田日銀は、1年を得て、金融政策の転換を慎重に進め、満を持して、今回の政策決定に至ったように見えます。

ただし、今後の利上げに向けては、日銀には、より慎重な政策運営も求められます、
今、日本経済は30年に及ぶデフレ経済の低迷から脱し、「賃金と物価の好循環」実現に向けた胎動も見られます。
たった7カ月で量的緩和政策導入に「逆戻り」となった2000年8月の速水日銀のゼロ金利解除、リーマンショックで「逆戻り」となった2007年2月の福井日銀の17年前の利上げ等、政府の方向性とも乖離し、結果として、利上げを急いだことによる失敗の例も見られます。
今後の利上げに向けては、日銀には「失われた30年」と言われる日本経済の長期低迷からの脱却に向けた「最後のチャンス」を逃すことが無いよう、慎重な金融政策の運営が求められます。

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